2.盗難事件

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 飽きもせず光の球とじゃれ合っているトムを横目にトゥーシャは嘆息する。 「ぼくは、あそこじゃ魔法が使えないんだ」  人間の使う魔法は術者の持つ魔力を呪文によって媒体と融合させて完成する。融合させる媒体によって完成する魔法の性質は決まる。光の媒体を使えば光の魔法、闇の媒体を使えば闇の魔法といった具合である。  エトゥーリオのいる闇の宮殿は深い森の中にあり、エトゥーリオが支配するずっと以前から闇の力が満ちていて、日々様相を変化させていた。  おまけにエトゥーリオによって至る所に罠や仕掛けが施され、無防備に入り込むとあっという間に迷子になってしまう。  光の魔法を得意とするトゥーシャは闇の力に支配された場所では、ほとんど魔法が使えないのだった。 「ふーん。魔法って案外万能でもないんだね。ところで、さっきの矢はどこから飛んできたの?」  トムは相変わらず光の球に夢中である。トゥーシャは腕を組んで苦々しげに顔をゆがめた。 「魔法で飛ばしたに決まってる。今も宮殿の大広間でふんぞり返ってぼくらの事を眺めてるんだ。そう思ったらだんだんムカついてきた。ほら、遊んでないでさっさと行くぞ」  トゥーシャがトムを急かしてピッチを上げると、それに合わせて光の球も二人の前方へ速度を速めながら躍り出る。  そのまま二人は光の球を追って、闇の宮殿のある森へ歩を進めた。
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