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トゥーシャが指差すとエトゥーリオは少し意外そうに目を見開いた。
「貴様、ルーイドの箱の噂を知らないのか?」
「知るわけないだろう」
「そういえば、辺境の地に出向してるんだったな」
エトゥーリオの言う噂とは、近頃ネコット国で誰からともなく囁かれるようになったルーイドの箱の中身である。根拠はわからないが、中に何でも願いを叶えてくれる魔物が入っているというのだ。
エトゥーリオとしては、叶えてもらいたい願いがあるわけでもなく、第一魔物が入っているという事自体信じてはいなかったが、だとするといったい何が入っているのか俄然興味が湧いてきた。
「で? 開けたのか?」
トゥーシャが尋ねると、エトゥーリオは小さな箱の上蓋部分を彼に向けて突き出した。
そこに書かれている文字をトゥーシャが声に出して読み上げる。
「……汝、この箱の封印を解くなかれ――って、まさかそれで開けてないのか? おまえがルーイド様の言う事聞くなんて薄気味悪いぞ」
眉をひそめるトゥーシャに、エトゥーリオは不愉快そうに言う。
「バカか貴様は。昔から開けるなという物を開けると、ろくな事がないと相場は決まっている。もしも、開けて古代から封じ込められてた精霊でも出てきてみろ」
トゥーシャは額に手を当て大きくため息をつく。
「おまえこそバカだろう。この箱が封印されたのは、たかだか五十年前だぞ。どうやったら古代の精霊が入るんだよ」
「とにかく! 私は封印を解かない。貴様が解くんだ」
「なんで、ぼくが?!」
「もしも、変な物が出てきて世界が混乱の渦に巻き込まれても、私は責任を逃れる事ができる」
当然だと言わんばかりにしれっと言い放つエトゥーリオをトゥーシャは睨みつけた。
「そんな事言われて、誰が解くもんか!」
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