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無情にもトゥーシャの手をあと少しところですり抜けたトムが、振り返りながら惰性で踏み出したその足元に魔法陣が浮かび上がった。
「きゃあっ!」
トムは悲鳴を上げてその場に硬直する。
「動けないだろう、少年。貴様も動くな、トゥーシャ」
そう言って、駆け寄ろうとしたトゥーシャを制し、エトゥーリオはゆっくりとトムに歩み寄り、両肩に手をかけた。
「なんなの? これ」
トムが不安げな顔でエトゥーリオを見上げながら問いかける。それを見下ろしながら、エトゥーリオは微笑んだ。
「これか? 限定一名様の動きを封じる魔法陣だ」
そして、トムの身体を反転させ、トムの目線に合わせて腰を屈めるとトゥーシャを指差し、耳元で告げる。
「さぁ、あいつに箱の封印を解くよう説得するんだ。でないと、おまえの命はないぞ」
反応を窺うようにエトゥーリオが見つめると、トゥーシャはそれを睨み返した。
「そんな脅しには乗らない! ぼくは箱を持って帰るのが使命なんだ。封印を解く気はない!」
トゥーシャが宣言すると、エトゥーリオはトムの両肩を軽く叩いた。トムが驚いて小さな声を上げる。
「脅しだと思っているのか。なるほど」
トムは動きを封じられてからずっと、エトゥーリオの思惑を読み取ろうと懸命になっていた。ところが、一瞬彼の意識に触れた途端、感付かれてしまったのか霞がかかったように何も見えなくなってしまったのだ。
今もエトゥーリオが本気なのか脅しなのか一向にわからない。それが益々トムの恐怖心を煽っていた。
エトゥーリオはトムの顔を後ろから肩越しに覗き込みながら、ゆっくりと目を細め、口元に冷たい笑みを浮かべた。そして、耳元で囁く。
「悪く思うな、少年。恨むならトゥーシャを恨め」
トムの肩に添えられたエトゥーリオの手が首に向かって滑っていく。彼のしなやかな指先が首筋に触れた時、そこから伝わった意識に、トムは恐怖の涙を浮かべて悲痛な叫び声を上げた。
「トゥーシャ! この人本気だよ! お願い、助けて!」
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