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エトゥーリオは腕を組んでムスッとした。
「そうだ。それが一番ひっかかる。なぜ直弟子の貴様ではなく私なんだ。あいつとは袂を分かって以来、三百年以上顔を合わせていないんだぞ。それを見極めるためにも絶対来てもらう」
「絶対、断る!」
「いたーい!」
トゥーシャが間髪入れずに拒否すると、隣でトムが再び声を上げて首を押さえた。目に涙を浮かべて顔をゆがめている。本当に痛そうだ。
「卑怯だぞ、おまえ!」
トゥーシャが怒鳴るとエトゥーリオは意地悪な笑みを浮かべる。
「貴様が甘い事は承知している。行くと言わなければ、少年がもっと痛い目に遭うぞ」
「トムは関係ないだろう?! ネコをいじめると、死んだ後化けて出るぞ!」
「なるほど、それは困る」
「え?」
苦し紛れに言った言葉に、エトゥーリオがあっさり退いたので、トゥーシャは思わず間の抜けた表情でエトゥーリオを見た。
トムはと見ると、痛みが退いたらしく、首をなでながらホッと息をついている。
あまりに素直なエトゥーリオが薄気味悪くて、探るように見つめると、彼は再び意地悪な笑みを浮かべた。
「かわりに貴様がうんと言うまで、毎日寝所におはようとおやすみのキスをしに行ってやる」
トゥーシャは頭をかかえながら半狂乱になって叫んだ。
「やめてくれ――――っ!!」
その様子を冷めた目で見つめながらトムが言う。
「いいんじゃないの? そのくらい。ぼくみたいに痛いわけじゃなし」
トゥーシャはすかさずトムの方を向くいて、拳を握って怒鳴る。
「いいわけないだろう! 精神的に痛いじゃないか!」
「だったら、答えはひとつだな」
エトゥーリオが勝利の笑みをたたえてトゥーシャを見つめた。トゥーシャは少しの間エトゥーリオを睨んだ後、吐き捨てるように言う。
「……行けばいいんだろう? ほんっと性悪だよな」
「ねぇ、そうと決まったら、この痛いの取ってよ」
トムが自分の首を指差して言うと、エトゥーリオはニヤリと笑った。
「全部済んだらな。それまで私の機嫌を損ねないように、せいぜいトゥーシャにお願いしておくことだな」
「ほんっと、性悪だよね」
トムは不愉快そうに眉をひそめて首をなでた。
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