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鏡をくぐって二人が現れたのは、城の大広間だった。
トムは珍しそうに高い天井を見上げたり、キョロキョロとあたりを見回す。すると突然、隣にいたトゥーシャが声を上げて前につんのめった。
振り返った二人の前には、お人形のようにフリルやレースのいっぱい付いたドレスを着た、見た目はトムと同い年くらいの少女が不機嫌そうな顔をして立っていた。どうやらこの少女がトゥーシャを突き飛ばしたらしい。
少女の姿を見た途端、トゥーシャは愛想笑いをしながら跪いて恭しく頭を下げた。
「これはこれはエルフィーア姫。ご機嫌うるわしゅう」
トゥーシャの仰々しい挨拶に、姫は益々不機嫌そうにトゥーシャの頭を軽くはたく。
「うるわしく見えるならあんたの目は節穴ね。緊急事態だって言ったでしょ? どうして余計なものを連れてくるのよ。なんなの? この子」
姫がトムを指差すと、トゥーシャは頭をかきながら立ち上がり、笑顔で答えた。
「多分、救世主」
「ふざけないで! 大方、帰ろうとした時、たまたまそこにいた子をうっかり連れてきただけでしょ?」
うっかりではないが、たまたまやってきた猫少年を思いつきで連れてきたことは事実なので、トゥーシャはあっさりと認める。
「わかってるなら聞かないで下さいよ。……で? 緊急事態ってなんですか?」
姫はハッとしたように真顔になってトゥーシャを見上げた。
「ルーイドの箱が盗まれたのよ」
少し目を見開いたものの、さほど緊急性を感じた風でもなく、トゥーシャは呑気に問い返した。
「なんでまた、あんなもの。何に使うんだか、何が入ってるんだかわからないのに」
ルーイドの箱とは五十年前に他界したネコット国の賢者ルーイドが遺した小さな開かずの箱である。
ルーイド本人の手により複雑な封印の魔法で封じられ、中に何が入っているのか、何に使うのか不明である。
あまりに厳重に封印されているため、開けてはならない物なのだろうという事で城の地下宝物庫に入れられ、箱の周りには魔法結界を張り巡らせ、宝物庫の入口には常に警備兵が見張りに立っていた。
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