2.盗難事件

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「城の警備に問題があるんじゃないですか?」  呑気に問いかけるトゥーシャにエルフィーア姫は苛々して叫ぶ。 「もーっ! 少しは緊張しなさいよ! 盗んだのは魔法使いよ!」  しかし、トゥーシャは相変わらず平然としている。 「でしょうね。魔法結界を解いて持ち去ってるんだから」  何を言ってものれんに腕押し状態のトゥーシャに苛ついて、姫は怒りの矛先を彼に向けた。 「あんたのせいよ! なんでもっと強力でスペシャルな結界を張っておかないのよ!」  さすがにトゥーシャも面食らって反論する。 「へ?! ぼくがやるまでもないっていうか、ぼくにやって欲しくないっておっしゃったのは姫じゃないですか!」 「だって、あんたの呪文聞きたくないんだもん」 「それは悪うございましたね」  二人がそれぞれ腕を組んでプイっと顔を背け合った時、ずっと黙って様子を見ていたトムが呆れたように声をかけた。 「……ねぇ、緊急事態じゃなかったの?」  トムの声に姫は振り返ってトゥーシャを指差す。 「そうなのよ! さっさと取り返して来なさいよ!」 「誰から?! どこから?!」  トゥーシャが問いかけると姫は後ろで手を組み胸を反らしながら、意地悪な笑みをたたえて彼を横目で見上げた。 「盗んだ奴の見当はついているの。当ててごらんなさい」  今度はトゥーシャの方が苛々しながら問いかける。 「わかりませんよ。教えて下さい」 「少しは考えなさいよ。あの結界を解いて、ルーイドの封印を解ける自信のある魔法使いなんて限られてるでしょ?」 「ぼくじゃありませんよ。ぼくにはアリバイがあります」  再び押し問答を始めた二人を見かねてトムが口を挟んだ。 「もしかして、エトゥーリオ?」  二人は同時にトムに注目する。 「なんで、おまえが知ってんの? 姫、本当にエトゥーリオ?」 「そうよ。なんであんたわかったの?」  二人が不思議そうに尋ねると、トムは得意げな笑顔で答えた。 「ぼく、人の考えてる事わかるの。超能力ってヤツ?」  トムは人間になった時、ほんの少しだけ超能力が使える。  それは、ネコの時に持っていた能力が人間の器に入りきらなかったため、付加機能として備わったものだ。
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