囚われた花の記憶

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囚われた花の記憶

琴之羽 あさ姫(ことのはね あさひ)は幼い頃から身体が弱かった。気温、湿気、僅かな刺激ー…あらゆるものは彼女の健康を蝕んだ。その度あさ姫は何度となく学校を欠席した。止まらぬ咳に犯され、発疹に全身を這われ、熱に苦しめられた。体調が良くなり学校に行ける日の方が少ない。久々に学校に行くと、皆口々にあさ姫を気遣ってくれた。声をかけてくれたり、あさ姫自身名前も覚えきれていないクラスメイトが移動教室に付き添ってくれたりした。とても有難かった。みんなの優しさに触れるたび、心が暖かくなったー。けれど…もう一つの感情が常にあさ姫を苦しめた。 『わたしはみんなに余計な心配をかけている』 できることは自分でやってみようといろいろ手を出すものの、すぐに体調を崩し周りの人達の手を借りることになってしまう。それに、勉学の面でも心配は尽きなかった。学校の授業に出席できず、常に同級生の数歩後をやっと付いていくような状態だ。同級生たちとのその距離はどんどん離れ、やがて一緒には歩けないほどになっていくー。真っ暗な世界に一人だけ置き去りにされたような孤独感に一人震える夜も少なくなかった。そんなときでも咳をしながら自室の天井の木目を見ているしかない自分が情けなかったー。
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