囚われた花の記憶

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そんなあさ姫の心の支えは祖母である 琴之羽 縁緒 (ことのはね ゆかりお)の存在だった。あさ姫は自身の記憶にも無い遠い昔に両親を交通事故で失ったため、それ以来祖母である縁緒に女手ひとつで育てられてきたー。縁緒は老人にしてはいつもてきぱきと行動し、家事に仕事に忙しい毎日を送りながらも、あさ姫の看病を決して疎かにはしなかった。いつもにこにこと微笑み、あさ姫を怒ったことなど一度も無かった。優しく、けれども芯のある人だった。 「ごめんね…、おばあちゃん……。また心配かけて……」 いつものように熱を出し自室の床に伏せっているあさ姫の傍らで縁緒はてきぱきと洗面器に張った冷水にタオルを浸し、あさ姫の額に乗せてくれる。心地が良いー。 あさ姫は毎度手間と心配を祖母にかけている自分自身を内心責めた。本来ならば自分のような若者こそが祖母のような年齢の者の面倒を看る側でいるべきなのだー。それなのに…。『わたしはいつもおばあちゃんだけじゃない、友だち、先生、いろんな人に迷惑ばかりかけている……』。あさ姫の表情が心なしか曇る。 「あさ姫…手を出せるかい?」 「?」 祖母に言われるまま布団の横から白く細い右手を出すと、ひんやりとした小さな金属の冷たさが手のひらを伝った。 「これをお守りにおし。」 「これは…」 あさ姫が見るとそこには十字架の中心に水晶の埋め込まれたロザリオがあった。部屋の光に反射し角度を変えるごとに違ったきらめきを見せる。 「きれい……!」 「大丈夫」 「…え?」 「あさ姫や、あんたには神様がついとる。…目には見えなくても、わたしにはわかる。だからどんなに苦しいことがあっても大丈夫なんよ…。」 静かに落ち着いた声で話す縁緒ー。 そしていつものようににっこりとあさ姫に微笑んだ。 「これを見て神様のことを思い出すといい…」 「…ありがとう、おばあちゃん……」 あさ姫もロザリオを握りしめ微笑み返す。 特にクリスチャンというわけではなかったあさ姫だが、祖母の言葉を聞いて少し暖かな元気を取り戻せた気がした。祖母の言う「神様」というものがどういうものなのか正直よくわからなかったが、信頼する祖母に「大丈夫」と言ってもらえたことで少し安堵した。
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