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暑い…、暑すぎる…
こんなことなら空調器の効いた室内に早く帰ってしまいたい。見渡せば田んぼと山ばかりのこの田舎で、しかも夏休みに、僕は何のためにこんな暑さの中水なんぞを運ばねばならないのだろう…
「うう…これじゃ意味無いよ…」
雪霧は校舎裏の井戸からふらふらと水の入ったジョーロを持ち歩く。せめて帽子を持ってくれば良かった。真上から降り注ぐ日光に脳が溶けそうだ。その哀れな脳の片隅に金糸の波と海の色をした煌めきが何度も過(よぎ)る。その煌めきは絶える事なく雪霧の中にこれまで幾度となく反射してきた。陶器のような、桜の花弁のような、声は穢れを知らぬ純白のソプラノー。
今日は会えるって聞いてたのにな…。ふはは、次会えるのって夏休み明けになってしまうのだろうか…。雪霧はふらつく足取りのまま校舎横を抜けた。
。
「あ、織田先輩っ!もうおっそいですよ!!たかだか水汲みに何分かかってるんですかっ!」
「こら小梅ちゃん、また言い過ぎよ。織田君もこっちに来て一緒に休憩しましょう!」
木陰から大声で雪霧を呼ぶ二人の後ろに遠慮がちに手を振る三人目を見た雪霧の足が一瞬止まる。
再び歩みだした雪霧にはもう夏の暑さなんて、生意気な後輩にこき使われた苛立ちなんて、そんなものは全て全てどうでも良くてー
平静を装いつつも一段明るくなった雪霧の表情を見て、委員長はまたふふ、と笑みを浮かべた。
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