辺境の花と濃紺の兵服

8/16
前へ
/20ページ
次へ
明日も明後日も、用事なんてない。ずっと、無い。急ぐ必要など無いのに、雪霧は自らの中に生まれた焦燥を見逃せずにいた。部活動に、勉強に、活気良く勤しむ同級生らが内心眩しかった。自分も彼らのような世間一般で言う中学生らしい、子どもらしい学校生活を送ることを何度か想像してみた。それは素晴らしい世界であると同時に、雪霧自身の超えられない壁の向こう側の世界であるように感じた。いつも分厚いガラス越しの世界を、ガラスを叩くことも壊すこともせずそっと眺めている毎日ー。これからの中学三年間いや、高校に行っても、それから先も、自分はずっとずっと、このままなのだろうかーー。周囲の人間が当たり前のようにして溶け込める世界に、雪霧はいつも馴染めないままだった。友人を作るのが怖かった。何かに必死で打ち込むのが怖かった。 夕日は果てない田んぼの水面に黄金の影を落としながら、西の空へ滲んでゆく。ー唐突に涙が溢れた。周囲に人影は無い。けれども、自分が無性にやるせなかった。止めようとしても余計に涙は溢れてくる。何のために僕は生まれたのだろうー。こんな判で押したようなマイナス思考ができる自分にさえ苛立つ。急な疲労感を覚え、足が歩みを止めた。進むことも戻ることも身体が拒否をしたー。 「どうしたんですか?」 急に聞こえた声に驚き顔を上げた。 見られたー!?中学入学早々、こんな情け無い姿を、一体誰にーー!!焦る思考に羞恥が混ざり始める。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加