夜、自己嫌悪

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壁が薄いのか、隣の宿泊客の話し声が聞こえる。内容からして作戦会議らしい。武器の確認やフォーメーションの話し合い等、どうやらベテラン冒険者達の様だ。 真剣なトーンで聞こえるそれらを子守唄代わりに、星を眺めていた上半身を硬いベッドに横たわらせる。 今の俺は次にこう考える。 『この"夢"は いつ覚めるんだ』と。 さぁ、始まりました夜のBADタイム。月が昇る時間帯は鬱思考になりがち。はっきりわかんだね。 新しい生を貰ったこと。助けてもらったこと。良い出会いがあったこと。これらを総括して、俺は いつかこの都合のいい夢から覚めてしまう事を恐れていた。 そんな事は無い、ここは間違いなく異世界で、俺は生まれ直した...生まれ直した?違うな...別世界で自由を手に入れることが出来た、が 正しい。だから、好きなように生きていけるのだと、理解している。 ただ、俺の壊れた部分がそれを許さないだけで。 何回ナイーブになれば気が済むんだ。読者もうんざりしてるぞ。おっと、メメタァ....... しょうがないだろぉ.......自殺出来たお陰か、生前(?)よりもメンタルが転がり落ちやすい気がしてんだよぉ....... 目が覚めたら、死ねた時のような浮遊感と、死後の世界での虚無を感じるのではないかと妄想してしまう。 それらは、別段恐くない。別に構いやしない。一度覚悟したことだ。なんて事ないのである。 ただ、今恐ろしいのは、微塵もない死への恐怖よりもこの世界での出来事を夢と認識してしまうのが怖い。 覚めないで欲しい。仮に都合のいい夢なのであれば、このまま続きを見せ続けて欲しい。 「...いつも、寝る時は悪夢ばっか見んだ...殴られたりとか、悪口言われたりとか、起きてる時に楽しいことなんてなかったから....そういうのばっか見る...だから、寝たくなんてなかったし、眠っちまっても早く起きなきゃって念じてて..... 夢の中でくらい、いい夢見せろよって思ってた... けど、今は寝るのが怖ぇ.......起きたら、何もかんも終わってそうで.....全部俺が見てる死後の幻覚なんじゃないかって.........」 薄汚れた宿屋の天井を眺める。 天井のシミを数えながら、ポツポツと思考を口から吐き出して頭の中を整理していく。 頭を回し終えた頃には、疲れに堪えた身体が勝手に眠ってくれるだろう。 当たり前にやってくる朝に、普段なら「また一日が始まってしまう」と絶望しているが、今は違う。 その朝を確認できるのかできないのか、そこが分からなくて眠ることすら臆していた。 「..あークソ、眠い...........寝たくない.........」 思考はバキバキに覚めてるのに、体はやはり想像以上に疲労が溜まっていたらしく段々瞼が重くなっていく。 「クソが.........1日だけの夢じゃ、ありませんように....... 五感の冴え渡ったリアリティのある夢じゃ、ありませんように......... 起きてもせめて、同じ場所で目覚められますように......... もし、もしも本当にただの夢だったなら、せめて、元の世界じゃなくて、地獄でもなんでもいいからさ.......俺の事知ってる人がいない場所で目覚めさせてくれ.............」 あんな場所にもう、戻りたくない。 「ぐごーーーー.............................................」 就寝。
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