1293人が本棚に入れています
本棚に追加
帰りがけのタクシー。
私とお父さんは並んで後部座席に座っていた。
結婚はもっと喜ばしいはずなのに、お父さんの表情はお通夜のように暗い。
すれ違う車のヘッドライトが時々射し込んで来るけど、車内は薄暗かった。
「留奈…桐生社長は仕事の出来る男だが、女性関係は派手で…父としては余りお勧め出来ない相手だ。でも、来年・・・『桐生建設』が着工するシンガポール最大のショッピングモールに、我が社もアジア最大規模の店を出店するんだ」
お父さんはポツリポツリと私に胸の内を語ってくれた。
「大きなビジネスで失敗は許されないし、伊集院総理からも祝福されている以上・・・この結婚は断れない」
父として、社長として…お父さんは苦しんでいる。
「分かりました。私は桐生社長と結婚します」
「留…奈」
私の命と引き換えに実の母は亡くなり、それからお継母さんの千紘さんに出会うまでお父さんは一人で私を育ててくれた。
私はお母さんが亡くなったのは自分のせいだと罪悪感を持っていた。だから、お父さんの前ではいい子を演じていた。
そんな思いが常にあり、そのキモチがお父さんに恋心を。
桐生社長の言う通り永遠に叶わない恋だ。
正直、私は桐生社長が嫌いだ。
でも、お父さんの為にもこの結婚を承諾するしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!