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ある日、このラーメン屋に一人の青年がやってきた。カウンター席に座った青年に店主は、「注文は?」とぶっきらぼうに尋ね、青年は醤油ラーメンを注文した。
ラーメンが出てくるまでの間、青年は店内をゆっくりと見渡した。店内に無駄な装飾は一切なく、時計やメニュー表を除けば、あるのは壁に飾られた腕組みをした店主の写真と、「スープは命」と力強い文字で書かれた紙の入った額縁があるのみである。
しばらくした後、「お待ち」と青年の元に頼んだ醤油ラーメンが出された。青年は割り箸を割って、さっそく一口目を食べようとしたところで、突然店主がラーメンのこだわりを語り出した。
「お客さん、うちはスープが命のラーメン屋なんだ。まずスープから味わってくれ。その時、よく舌の上でスープの奥深さを…」
店主が言い終わるのを待たずに青年は麺から食べ始める。
「お、おい、あんた人の話聞いてんのか!? スープから味わってくれって言って…」
構わず青年は麺をすすり、チャーシュー、メンマと具材を食べ、結局スープを一口も味わう事なく麺を食べ終えた。呆気にとられる店主を他所に青年はお勘定を申し出るが、
「ふざけるな!! 金なんかいるか!! お前なんか客じゃねぇ!! 二度と来んな!!」
と、烈火のごとく怒り狂う店主は青年を店から追い出したのだった。
何かに気づいた様子の青年は意気揚々と店を後にし、青年と同様の手口で青年の親族や友人が殺到した店は一ヶ月後に潰れた。
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