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その様子をしばらく愛おしく見つめた後、スーツを脱ぎ浴室へと消えていった。
彼がシャワーを浴びている間、ミーコは自分の縄張りの見回りをする、縄張りといってもそんなに広くない二間のアパートの部屋を見て回るだけ。
カリカリを食べるのをやめると、居間をきょろきょろと見まわしたあと、部屋をくるくると歩き回る。
床に置きっぱなしになっているビニールの袋を見つけた。近づき匂いをかぐとまだ袋のなかに何か中身が詰まっていることが分かった。
ミーコはビニール袋で遊びたい衝動を必死に抑える、袋の誘惑に何度も負けそうになるけれどその脳裏には昔の出来事が浮かぶ。
この家に入り込んだばかりのころ、ミーコはまだ中身の入っている買い物袋に無理やり潜り込み、中身を踏みつぶして怒られてしまった事がある。
その時の彼のガッカリした様子をよく覚えている。
ミーコは彼のうれしそうな顔を見ると自分も楽しくなり、彼の悲しそうな顔を見ると自分も何故だか悲しい気持ちになるのだ。
だからこそミーコはビニール袋の誘惑を必死に拒む、なんども袋の匂いをかぎ、中身が入っていることを自分に言い聞かせる。五分ほどそこに居たけれど、名残惜しそうに次の部屋へ向かう。
寝室に入ると部屋を見まわし、部屋の中を隅々まで見て回る、彼が脱ぎっぱなしにしたスーツの上をとことこと歩いて臭いをかぐ、異物はないようだ。
彼が外で拾ってきた臭いに異常がないことを確認するとミーコは居間を通って玄関とトイレ、浴室に続く廊下へ向かう。
彼はまだ浴室でシャワーを浴びているようで出てくる気配がない、玄関に向かっているミーコの足がとまる。
その目線の先にはただ玄関があるだけだ。そこには何もない、なのにミーコはじーっと玄関を見つめている。
ガチャ
「ふぅー」
彼がお風呂から出てきた。シャンプーやボディーソープの香りを漂わせミーコに話しかける。
「お!まってたのか?ミーコは俺のことが大好きだなぁ」
にやにやしながらミーコを見つめる。いつもならミーコも自分のことを見つめ撫でてくれるのを待っているそぶりを見せるのだが今日のミーコは違った。
お風呂場の自分とは別方向の玄関を見ている。
「ん?何か虫でもいるのか?」
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