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「とりあえず、外に出てもらってもいいですか?」
ワンピースの女の気持ちを逆なでしないように引きつった笑顔で優しく話しかける。けれど女は少しも動こうとしない。
何を話しかけても返事をしないし動きもしない、大人しそうに見える。この様子なら襲われることは無いだろう。
そう結論付けると足元で女を見つめているミーコを抱き上げ、居間の方に運びゆっくりとおろすと廊下と居間を隔てる扉を閉める。
棒立ちの女の背後にある玄関のカギを恐る恐る開けて、「どうぞ」と外に出るように促してみる。
女はやはり動かない。このままではらちが明かないと思い女の腕をつかんで勢いよく扉を開き外に出そうと手を伸ばした。
スカっ
「え?」
思わず声が出る。女に触れたはずの手には何の感触もなく宙をつかんだ。
あれ?つかみ損ねた?そう思いもう一度狙いを定めしっかりと彼女の腕をつかもうと手を伸ばした。
スカっ
やっぱりつかめなかった。再び背筋がゾクゾクと凍った。
「もしかして…お姉さん…幽霊?」
開きっぱなしの玄関の扉と女の間に棒立ちになり、誰かが今の自分を見ていたら頭のおかしいかわいそうな人に見えるだろうなと冷静なことを考えつつも心臓はドキドキと興奮状態だ。女から視線をそらせない。
女は微動だにせず玄関に立ったままだ、もう一度腕に触ってみようとする。けれどその手が女に触れることはなかった。
自分の頭がおかしくなったのかと思いながら、ゆっくり玄関の扉を閉める。女の体をすり抜けて廊下まで歩くとゆっくり玄関に振り返る、女を見つめながらゆっくり後ずさりミーコと自分の間にある扉を後ろ手に開くと、ミーコが女の足元に駆け寄る。女の足元に着くとじーっと女を見つめている。
やっぱりこの女はここに存在しているんだ。自分だけに見えているならミーコのこの反応はおかしい。
ということはやっぱりこの女は、幽霊?
短い廊下をササッと早歩きで駆け抜け、女の足元に居るミーコを素早く抱き上げると居間に逃げ込み扉を勢いよくバタンッと閉める。
緊張感に縛られて収縮していた筋肉がゆるみ、はぁはぁと呼吸を荒げてその場に座り込む。
彼の腕におとなしく抱かれていたミーコはピョンっと腕から飛び出ると、居間と廊下を隔てる扉のすりガラスから玄関を見つめている。
やっぱりミーコにもあれが見えているんだ。再びそう認識をすると何故だか弾んでいた鼓動が少し落ち着いてきた。
すりガラス越しに女を見てみると、混乱してる自分など視界の片隅にも入っていないのか、その場に立ち尽くしている。
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