第1章

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 まったくもって私には運がない。準備はしっかりしてるのに、なぜだかうまくいかない。しかもドレスを着いていて、ヒールも履いていて、引き出物も持っている、そんな今日に限って突然に雨が降る。  私はやるせない気持ちを大きなため息と共にもう一度吐き出した。  私は彼に車で迎えに来てもらえるか考えた。しかしその考えはすぐさま駄目だと気が付いた。  そういえば今日の彼の日程は、フットサルに行ったあと、仲間と行きつけの居酒屋で呑んでくると言っていた。もう帰っている時間かもしれないが、呑んだあとなら車で迎えには来れるわけがない。  私はタクシーで帰ろうか悩んだ。しかし結婚の祝儀でお金を使っているので、もうあまりお金を使いたくはなかった。しかもタクシー乗り場はすでに行列だ。  私は仕方なしにコンビニに寄って傘を買って帰ろうと思った。  「おい、優子」  突然、後方から私の名前が呼ばれた。私はビックリしながら名前を呼ばれたほうに振り向いた。そこには彼がいた。ちょうど駅から出てきたところだった。  彼はジャージ姿で、右肩にはスポーツバックを担ぎ、左手には傘を持っていた。そして顔を少し赤らめていた。どうやら居酒屋から帰ってきたところだろう。  「お前も今帰ってきたのか?」と彼は私に訊いてきた。  私は彼の質問に答えず、疑問に思っていることを口にした。    「剛史、よく傘持って行ったね」  「ああ、これ」と彼はそう言いながら左手に持っていた傘を持ち上げた。  「いや、前に居酒屋に行ったときに忘れてたみたいで、大将が今日は持って帰れって渡してくれたんだ。そしたら駅から出てみたら、突然の雨だろ。俺、ツイてるわ」  彼が傘を持って現れたことは、私にとって喜ばしいこと。しかし私は素直に喜べない。喜べないどころか無性に腹が立つ。なぜ、いい加減な彼は運がよく、ちゃんとしている私が運が悪いのか。ほんと人生というのは不公平に出来ている。  「お前は傘ないんだろ。俺が来て助かったな」  彼は私が落ち込んでいるのも構いもせず、傘をさして先先に進んでいく。  「ねぇ、ちょっと荷物持ってよ」と私は彼を追いかけながら言った。  「ヤダよ。だったらお前が傘さしてくれるのかよ」    背の高い彼に、私が傘をさせるわけない。私が傘をさしたら、私は常に腕をてっぺんまで上げた状態じゃないといけない。
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