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大男はものすごい形相でゆっくりと両手の拳を前につき出したので、ひろきは身を固くした。
大男はそのまま床に両膝を着いて突っ伏すと、頭を下げて土下座した。
「少年よ、頼むからお前さんの願いを三つ申してくれないか。」
ひろきはこうまでして頭を下げる男が少し哀れになったのか、渋々答えた。
「わかったよ、願い事三つ言えばいいんだね。」
大男が仏頂面で重々しく頷く。
「じゃあ、一つ目はこのこがらしやのカップ麺を弁償すること。」
「そんなことなら、お安い御用だ。」
大男は、すぐに手のひらを頭上に掲げると、どこからともなく箱詰めされたカップ麺が手のひらの上に現れた。
「それから、二つ目はカップ麺を丁度良い湯加減にしてくれること。」
「そんなことなら、朝飯前だ。」
大男は箱からカップ麺を一つ取り出すと、篠籠手に覆われた手をその上にかざした。
するとあら不思議。カップ麺から湯気が立ち上り始めた。
「で最後の三つ目は、おじさんが二度と俺の前に現れないこと。」
「・・・あ、あい分かった。では、三つ目の願いを叶えて進ぜよう。」
大男の無表情な歌舞伎面は変わらなかったが、声に翳りがあった。
こころなしか、大きな背中が小さく見えた。
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