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 もともとこうした超人兵士の計画は遠い昔から考えられていたが、どれもお蔵入りになるか予算の関係で白紙になることが殆どだった。  当然ながら、費用対効果でいえばあまりに効率の悪いものだ。たかだか兵士ひとりに金をかけて強化するよりも最新鋭の兵器に予算をかけたほうがいいことは明白だ。  とはいえ、敵は人間ではない言葉の通じない得体の知れない怪物であり、それが時と場所を選ばず出現するとなれば、対地ミサイルなどではヴァリアント討伐よりも無関係な者や土地に甚大な被害をおよぼす。  そこで白羽の矢が立ったのが、かつてひそかに研究が進められていたナノマシン技術だ。  もっぱら医療の現場で脊椎損傷の患者などに投与して神経伝達の働きを活性化させるなどの運用が殆どだ。  すでに医療用ナノマシンは量産されて社会の中で広く利用されており、予算の問題もいくらかクリアできることが期待された。  これを軍事用にカスタマイズすることには研究者や軍事関係者は骨を折ったが、驚くほどの速さでそれが実現した。  そして合衆国で初めて、生体改造とナノマシンを人体内で生成するデバイスを埋め込んだ原初の生体兵士が誕生した。   この方法と技術ができ初めてから、家族や大切な人を失った兵士が復讐のためにその改造手術を志願した。  しかしながら手術が失敗に終わることも少なくはなかった。強すぎるナノマシンの過剰反応による副作用で全身をがん細胞で埋め尽くされ、後遺症に悩まされたり、寝たきりになる兵士も多々いたのだ。  初めて、合衆国で生まれた第一号の生体兵士も増殖したナノマシンの過剰反応により命を落としたことが、発表からわずか二週間ほどで報告された。  仮に成功したとしても、成人して肉体的に発育し終えた身体にナノマシンと生体機械の恩恵はあまり受けられずにヴァリアントとの闘いで負けてしまうことも多かった。 「大人が駄目ならば発育途中の子供を使った方が、ナノマシンと生体機械は浸透して我らが思った成果をあげられるのではないだろうか」  子どもの権利条約もクソもない倫理観ぶち壊しの、冗談としか思えない理論だった。  その科学者の理論に誰もが賛同した。ヴァリアントによりもたらされた混乱は長きに渡り守られ続けた倫理観を崩壊させた。  誰もその意見に反対するものは現れなかった。改造手術を受ける子供たちはまず親もいない住むところがない孤児が対象となった。  科学省の人間たちは一斉に検体をもとめて児童養護施設に押し寄せ、孤児の身体に生体機械とナノマシンを埋め込んだ。すると予想通りの結果が得られた。  改造手術を受けた子供は、まさに怪力や動体視力などのを超人的な力を手に入れ、ようやくヴァリアントに一矢報いる大きな成果を上げたのだ。  当然、世界各国の政府や軍は身寄りのない子供たちをかき集め、生体改造を施した。  やがて全世界で生体改造を施した少年兵たちが武器を持ってヴァリアントと闘うことがスタンダードとなった。  まさしく負の象徴。  守られるべき子供たちが恐怖に駆られた大人たちを守るための道具と化した時代の流れは現在にまで至る。
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