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第三週の金曜日がやってきた。
光井学級に所属する数人の子供たち(国により生体兵器としての人体改造を受けた子供たち)にとって毎月第三金曜日の朝は少し憂鬱だった。
その理由は朝九時ごろから「健康診断」として、複数の医療関係者とバイオ工学の研究者が入れ代わり立ち代わりで、自分たちの身体のあちこちを弄られるのだ。気分がいいものではない。
皆が食事を摂る生活棟の食堂から離れ、お手製のハンモックに寝転がり、外で晴れた空を見上げながら桜子はひとり食事を摂っていた。
人体改造で味覚を感じない彼女は毎日毎日同じものを、一本に付き一食分のカロリーと栄養素を含んだ細長いビスケットのような栄養調整食品を食べるのだ。
一見すると粗末で味気ない食事だが、桜子自身は半分機械じかけの奇怪な肉体なりに、不思議と血色がよく健康を保っていた。
「よう、今日健康診断だな」
朝食を食べ終えた大森はエレキギターを担いで桜子のところにやってきた。
桜子が寝転がるハンモックがくくりつけてある太いポールにおっかかってギターの弦を軽く指で弾く。
「俺は診断嫌いだね。身体中ピリピリする変なもん当てられて、ケツの穴に指突っ込まれるのもう嫌だよなあ」
それに対し、桜子は大森に関心を向けて首を傾げた。
「ん? なんだ?」
「…おシリに指突っ込まれるの?」
「え? 俺だけ?」
男子と女子では診断が分かれているため、その診断方法は少々異なるものかもしれない。
「どーせならさぁ、胸がデカくて綺麗なお姉さんになら身体いじくられてえよな。未央センセみたいな女の人にさ」
ともかく、思春期の男の子らしい願いを口にする大森。
桜子は大森のこういう発言に慣れているから、とくにノーリアクションだった。
ちょっと離れた広場のほうで年少の子供たちがサッカーをしているのが見え、大森はそれを眺めていた。
そうして時間を潰していると、ひとりの女の子が桜子と大森のもとへやってくる。
「ゲッ、委員長が来たぜ」
こちらへ向かってくる少女の顔を見て、大森がそう言った。
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