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 徐々に紫苑の声が荒くなる。  無言を決め込む桜子にだんだん腹を立てているのだ。  紫苑は生まれつき癇癪持ちの気があるらしく、見かけによらずに怒りっぽい。だからこそ周囲に対してとても過敏な反応をするのだ。 「あんたがそうやってだんまり決めてるの、どれだけの人が不快に思ってるか、分かっているの!?」  怒鳴り声を浴びせられても、桜子は何も答えない。  どうやら彼女も本格的に紫苑に対し苛立ちを覚えたのか、意地になって口を開かないつもりらしい。  いつしか紫苑の言葉を聞くことすらやめて知らん顔をする。  その不遜な桜子の態度が、紫苑の癇癪玉を破裂させた。 「人を馬鹿にするのも、いい加減にしなさいよ!」  甲高い声と共に紫苑が思い切り桜子を突き飛ばした。  小さな身体が地面に倒れ、それを見た大森が眼を鋭くして紫苑の腕を強く掴んだ。 「おい、そのへんにしとけ」  少し強い口調で言うと、紫苑は大森の手を振り払った。  まだ何か言ってやりたい気持ちだったが、少し離れたところに男性職員が何人かたばこを吸っていて休憩している。明らかにこちらの様子を見ている姿が見え、怒りの気持ちが冷えた。 「ほんと、やってらんないわよ」  いまいましそうに紫苑が吐き捨て、ひとりずんずんと生活棟へと戻って行った。  大森はそんな彼女の背中を見て肩をすくめ、桜子はケロリとした顔で髪の毛や衣服に付いた砂を手で払っていた。  午前九時になり、ネバーランドに研究所のマイクロバスが数台やってきて、健康診断が開始されてからも桜子と紫苑の間には妙に険悪な空気が漂っていた。  
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