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「…いい?」
「…ヤだ」
あと数ミリで唇が重なるってところまで近づいてきていた顔が、止まった。
「えっ!?」
「ヤだ」
はっきり繰り返してやると、垂れ流し状態だったフェロモンが一気に吹き飛んで、耳を垂れさせたワンコのような顔になった。
「なんでっ」とか、うるさいくらい繰り返してくる。
よかった。いつもの小太郎だ。
俺の見慣れた小太郎だ。
正直、フェロモン垂れ流しの小太郎は小太郎じゃないみたいで、苦手だ。
ホッとしながら小太郎を押しのけ、腕に絡まっていたシャツを脱ぐ。
青いシーツが敷かれた小太郎のベッドに上がり込み、振り返ると持ち主は何とも言えない間抜けな顔でこっちを見ていた。
「と、冬夜?」
「何してんだ、お前も来いよ」
「へっ?」
「床でヤるなんて冗談じゃねえっての。こっちは初心者なんだから手加減しろって言っただろ」
「!!」
「言っとくけど、俺は男同士のヤり方なんて知らな…」
最後まで言う前にガタイのデカい阿呆に飛びつかれ、背中からベッドに倒れ込んだ。
ついでにゲフッとむせた。
「っの、がっつくなよ、お前経験豊富なんだろ!?」
熱心に首筋に吸い付いてくる唇を押しのけ、何とか小太郎のシャツのボタンを外していく。
「だって冬夜だもん」
「あ?」
「冬夜相手に、余裕とか無理」
「んっ」
食われるようなキスを仕掛けられて、小太郎の胸元をまさぐっていた手が止まった。
その手を痛いくらいに握られる。
「冬夜…冬夜…っ」
「ん、は…」
…正直、小太郎が色んなヤツとしてたってのは複雑な気分だけど。
何か、もう、いいか。
指を絡めて、手を握り返す。
「来いよ」
体の力を抜いて、俺は小太郎を受け入れた。
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