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タイトル:マロの戦国 ‐今川氏真上洛記‐ 作:嵯峨良蒼樹(さがらそうじゅ)
マロの新たなる旅立ち
十三日物詣の志ありて発足
駒なへて行は霞の道の末有し野山も分迷ひけり(1‐9)
天正三年(一五七五)正月十三日の午後、今川五郎氏真ははやる気持ちを抑えつつ、京に向かって馬を歩ませていた。
付き従うのは浜松では「氏真衆」と呼ばれる今川家臣の朝比奈弥太郎と、海老江弥三郎、他に徒士(かち)や小者数名である。今川家の重鎮朝比奈氏の若手弥太郎が数間先を先駆けし、弥三郎が氏真のすぐ後ろに続き、その後を他の者たちが急ぎ足で追いかけた。
「うむっ!」
氏真は唸り声を上げ、突然馬の歩みを止めた。
「殿っ、いかがなされました!?」
すぐ後ろの弥三郎が馬を寄せた。
先を進んでいた弥太郎も異変に気付いて駆け戻ってくる。
氏真はしかつめらしい表情を浮かべながら懐に手を入れた。
「一首浮かんだ」
と言うと、筆と懐紙を手にして歌を詠み上げ始めた。
「こまなべてえ、ゆくはかすみのみちのすええ……」
(またか)
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