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マロの上洛 #3
船上の中食が終わる頃には申の上刻(午後三時)になろうとしていた。
「ご都合よろしければ坂本城にて一宿されてはいかがでしょう」
と光秀は申し出てくれた。氏真は
「これはかたじけない。では夕刻に再び参上仕る。唐崎の松や志賀の都を見ており申さぬ故これから南に下って見てみとうござる」
と答えた。
光秀は何やら言いにくそうにしていたが、それは言わず、
「ならばそれがしの家臣を案内にお付けしましょう。左馬助」
と傍らの侍を呼んだ。
「はっ」
弥太郎に劣らずキリリと引き締まった顔の侍が氏真に近づいて一礼した。
「これなるは我が従兄弟明智左馬助。唐崎や志賀の都跡の事はこの者にお聞きくださいませ。左馬助、頼んだぞ」
「はっ。氏真様、お見知りおきのほどお願い申し上げまする」
きびきびとしていかにも有能そうな左馬助に氏真は鷹揚に頷いた。
「では、案内を頼む」
一行は早速坂本城から半里ほど南にある松の名所唐崎神社に向かった。氏真は湖畔に広がる清爽たる松林を期待していたが、予想とは違って唐崎には大木だが孤松が海に向かって枝を伸ばしているだけだった。
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