マロの止まらない京都観光 #2

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 村雨して引接寺と云十王堂に立寄て  雨すくる風の便りに通いきぬ主も知らぬ軒の梅か香(1‐59)  今日は五里ほど歩き回ったが、宿にはまだ日が高いうちに着いた。これでゆっくりできる。弥三郎が宿の者に氏真の帰宿を告げようとして戸をくぐると、上がりかまちに腰かけていた大男が立ち上がり、続いて入ってきた氏真に身を縮めるようにうやうやしく一礼した。 「お、紹巴ではないか」 「お久しゅうござりまする。御屋形様にはご壮健にて祝着至極に存じ奉ります」  連歌師里村紹巴であった。紹巴は年の頃五十過ぎ、丈高く、骨太く、顔もまた大きく色黒く、一重まぶた、大きな鼻、厚い耳たぶの異相の持ち主である。温雅に見せようと努めてはいるが、連歌師と聞いて人が思い浮かべるような柔和で瀟洒な文人とはかけ離れた、一軍を叱咤する猛将のような武骨さを全身から立ち昇らせていた。 「昨日弟子の心前(しんぜん)にもたせました書状の通り、御屋形様に一刻も早くお目にかかりたいとは存じましたが先約がござりまして、やむを得ず今日参上いたしました。遅参の儀何卒ご容赦のほどを」
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