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「あ、うむ、気にするな。よく参ったな」
「ありがとうござりまする」
氏真は紹巴を招じ入れて紹巴の駿府下向以来八年ぶりの久闊を叙し、夕餉まで共にしながら今回の上洛の趣から始めて大いに語り合った。弥三郎も弥太郎と共に陪席を許され、平生聞く事のできない連歌の宗匠と氏真との会話を聞かせてもらった。
「さて、信長様のご上洛はいつになるか存じ上げませぬが、それまでは今日の歌枕や名所をご存分に見て回る事ができましょう」
「うむ、村井貞勝からもそのように言われたと聞いておる。なあ、弥太郎」
「御意」
「差し出がましいようではござりますが、お宿をお変えになられましてはいかがでしょうか。信長様はご上洛の折は相国寺を宿所とされる事が多うござりまする故、その近くがおよろしいかと。相国寺から数町西に参りますと松永弾正様のお屋敷の近くに木下なる所がござります。そこにそれがしの知る者の宿がござりまする。そちらに移られてはいかがでしょう。新在家にある拙宅からも数町の所にござりまする」
「ほう、それはよさそうじゃな。では、そこに移ろうか」
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