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「お聞き届けくださりまして誠に恐悦至極にござりまする。それではそれがし明日にその宿に参り、明後日にはお移りいただけるよう主人と話を付けておきまする」
「うむ、頼んだぞ」
弥三郎は内心喜んだ。これで今回の上洛の目的にふさわしい場所に宿が取れる。余計な事を言う案内者とも別れられる。連歌師もなかなか役に立つものだ。
「明日も名所を巡りたいが、そなたならどこに行くのがよいと思うかの?」
変な事をふきこんでくれるなよ、と弥三郎は内心警戒した。
「そうですな、明日は松尾(まつのお)神社にて手能がござりまする。その前後に嵐山界隈をご覧になれば終日楽しむ事ができましょう」
「おお、そうか、それはよい。そうしよう」
なおしばらく歓談した後紹巴は辞去し、氏真たちはそれぞれの部屋に引き揚げた。
一月二十七日の朝は晴れた。今日も氏真は夜明け前に目覚めたらしく朝から元気がいい。宿を出ると四条大路をまっすぐ西へ二里ほど歩いて行き、やがて突き当たる大井川を四条渡しの舟で渡れば松尾神社に着ける。四条大路には織物、武具、小物などの様々な座が集まり、人通りも多い。行く途中氏真はきょろきょろと見回して、案内の者に色々名所を聞き出したようである。
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