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「あ、あれなる太鼓は奥山(おくのやま)左近将監ではないか?」
弥太郎も驚きの声を上げた。
「……! 仰せの通り左近将監と思われまする」
演目が終わってから氏真は弥太郎に命じて太鼓を叩いていた弥太郎と同じ年頃の若侍を連れて来させた。弥太郎に連れられた若侍は氏真の前まで俯いて近づき、地面に平伏したまま頭を上げようとしない。
「苦しゅうない。面を上げるがよい」
氏真が優しく声をかけると、若侍はなおしばらくためらった後おずおずと顔を上げた。既に頬には涙がつたっていた。
「奥山、左近将監にござりまする……」
それだけ言うと左近将監は言葉を継ぐ事ができず、また顔を伏せた。
「生きておったか。よかった……」
「面目、次第も、ござりませぬ……」
左近将監は顔を上げて目を瞠って氏真の言葉を聞くと再び顔を伏せて涙にむせんだ。
「気にするな。勝敗は時の運じゃ……。それで武田に降参した後いかが相成った?」
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