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井伊家の遺児虎松の実母は奥山親朝の娘で左近将監にとっては遠縁に当たる。井伊家は家康による遠江侵攻前後に重臣に実権を奪われて以来逼塞を余儀なくされている。元服前の虎松も、今は出家して佑圓尼(ゆうえんに)と名乗っている養母の次郎法師も、行方知れずとなった左近将監が息災だと知れば喜ぶだろう。
「そうか……。まあよい。勝手の分からぬ都で旧知の者に会えてうれしいぞ。我らは駿河回復のため信長に会うまでは京におる故その間京見物に付き合ってくれぬか。なに、そなたの修業の閑々でよいから」
「勿体ないお言葉。出来る限りお供仕りまする」
左近将監は再び涙を流しながら平伏した。
他の演目にも出ると言う左近将監と別れて氏真一行は中食を取った。懲りない性質(たち)の氏真もさすがに色々思う所があったと見えて、物思いにふけりながら箸を動かす手もしばしば止まっていた。
その後氏真は気を取り直したようで松尾神社周辺を見て回ると言い出した。
「ここから四半里ほど南にある西芳寺には夢窓疎石禅師が作られたお庭がございます」
「なに、夢窓疎石禅師の庭? それは見ねばなるまい」
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