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西方寺は元々は法相宗の寺であったが度々荒廃し、法然上人により浄土宗の寺となり、さらに夢窓疎石禅師により臨済宗に変わって西芳寺と改名して現在に至るという。西芳寺には枯山水と苔の庭があり、戦国の世とて思うように手入れできずいささか荒れていたが、それでもなお、えも言われぬ風情をそれぞれに見せていた。
特に苔の庭は圧巻で、供の者も呼吸を忘れるようにしてその美観を見つめていた。いつもは騒がしい氏真も言葉を忘れて見とれている。その美しさは平素風流を解しない弥三郎にもよく分かった。本当に美しいものを見た時には人は言葉を失うものではないのか。言葉で飾る余裕のある美しさも、飾る言葉も真の美しさとは異なる虚飾ではな……
「うむっ!」
いのか、と弥三郎が感慨に浸っているそばからまた氏真お得意の吟詠が始まった。
「一首浮かんだ。あれわたるう、むかしのにわにい、すむみずのお、いわきもさすがあわれしるらんん……」
「お見事!」
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