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金閣は三重にして塔のごとし
朽もせぬいらかの庭にすむ水の流て影や世々に伝へん(1‐53)
一首詠んだ氏真は周囲を見渡していたが、東の岡に目を止めて尋ねた。
「霞の間から見えるあの丘の名は何という?」
「あれが船岡山にございます」
「おお、あれが清少納言が枕草子で『岡は舟岡』と書いた船岡山か。なるほど、朝霞から帆を現した舟のごとき風情よな……うむっ!」
氏真に従って一行は船岡山に登って見た。なるほど、金閣のある北山も周囲の景色も見渡せる。しかし氏真は他にも名所があるとて弥三郎らに探させたが見つからない。
「このあたりに七の社があるはずじゃ……。何、ならの社? ならの社というのは聞いた事がないが。そうそう、ならびの岡もこのあたりのはず……。なぜ見当たらぬのじゃ。見どころと言えばこの松の木一本か、後はこの春霞が隠してしもうたかな……。うむうむっ!」
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