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又ならの社ともいふ人あれはうたかはし
長閑なる日影うつろう紫のすみれましりの花の芝草(1‐57)
氏真はそのまま寝入ってしまった。その間供の者たちも座って休む事ができた。
どこにあるか分からない名所旧跡探しに無駄骨を折っても、何もない所から歌をひねり出して氏真は満足している様子だ。無駄骨を折らされる側の弥三郎はやれやれと思ったが、段々何も感じなくなってきている自分に気付いた。まあいいか、戦場(いくさば)で命を削るのに比べれば楽な仕事だ、と思えるようになってきた。
日が傾き始めると、雲行きが怪しくなってきた。この様子だとやがて雨が降ると思われた。これで今日は早めに見物を切り上げて帰れると思い、弥三郎は氏真に声をかけた。
「御屋形様」
「う、む……」
「雲行きが怪しくなって参りました」
「む、そうか。では帰るとするか」
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