2人が本棚に入れています
本棚に追加
「馬引け! これより武田を討つ!」
信長は叫ぶように命を下すと、たちまちのうちに大軍を率いて出陣した。氏真は鎧兜に身を包んだ信長の横に並んで共に馬を歩ませる。
やがて武田菱の旗印を立てた軍勢が現れ、指呼の間に迫った。
「かかれーっ!」
信長が絶叫すると、織田の大軍は打ち物取って武田勢に襲いかかり、激戦が繰り広げられたが、見る見るうちに織田勢が武田勢を圧倒し、蹴散らした。
勝ち閧を上げた織田勢は駿府まで遮るもののない快進撃を続け、とうとう駿府に着いた。今川館が昔と変わらぬ姿で建っているのが見える。
「さあ、参られよ」
微笑みを浮かべる信長に促されて、懐かしい四脚門をくぐり館の奥の間に入ると、家康が下座に平伏して待っていた。氏真は当たり前の事のように上座に座った。
「御屋形様、とうとう本懐を遂げられましたな……」
家康の眼から涙があふれ出した。
「家康はこの日をお待ちしており申した……」
「おお!」
そうであったのか、家康は桶狭間以来この日のために戦い続けてくれたのか……。氏真の目からも涙が流れ、家康の手を取った……、
最初のコメントを投稿しよう!