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その瞬間に氏真ははっとして起き上った。
目を覚まして見れば、そこは市原のあたりの里坊だった。夜明けが近いらしく、鶏が鳴き出している。
何と都合のよい夢想か、と氏真は苦笑いした。生まれて初めての上洛である故、物見遊山に明け暮れて気にしない振りをしていたが、心の奥底では信長の上洛を待ちかねるほど焦っているのだ、忙しくしていないと耐えられないのだ。自分にさえも隠していたそんな本心をこの夢で思い知らされた。
人は誰しも我知らず自分の夢の実現を急ぐようだ。特に明日をも知れぬこの戦国の世ではそうなのだ。信長も、家康も、老いも若きも、男も女も、皆生き急ぎ、死に急ぐ。しかし、マロは流されまいぞ。
そう念じて氏真はまた眼をつぶった。
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