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マロの止まらない京都観光 #4
「ふう……」
木下の宿に戻って夕餉を済ませた弥三郎は思わずため息をついた。信長や家康、敵の勝頼らは戦国の世の覇権を懸けて日夜鎬を削っているのに、氏真はほとんど毎日物見遊山に明け暮れている。そんな氏真に疑問を感じるから付き合うのに疲れるのだった。
弥太郎も浮かない顔をしているので同じ想いなのかと思って聞いて見た。
「弥太郎殿、我らは日々こんな風に物見遊山にうつつを抜かしていてよいのかのう。どう思われる?」
「信長が上洛するまではいたし方ないのではござりませぬか。寺社とのつながりもいずれ役に立つ事がござりましょう」
弥太郎は弥三郎の質問には興味なさそうに答えた。
「しかし、お顔の色が冴えませぬな」
「御屋形様の先ほどのお歌で反覆常ならぬ人の無情が頭から離れないのでござる……」
「なるほど。しかし、駿河を取り戻せればまたよい事もござりましょう」
「そうですな……」
弥太郎は笑みを浮かべたが、少しさびしげであった。
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