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風を切ってすぐ脇を通り過ぎていく真っ赤なポルシェに肝を冷やし身体を硬直させた。次の瞬間、千葉蓮が目にしたものは妻の朱音(あかね)と娘の心寧(ここね)が跳ね飛ばされる姿だった。
蓮はあまりにも突然のことに言葉も出ず、呆然と佇んでいた。
現実なのか、これは。嘘だろう。
突然のことに何が起きたのか理解出来ず思考回路が停止してしまった。蓮は、ただただ倒れて動かない朱音と心寧の姿を見つめることしか出来ないで突っ立っていた。だが突然、脳に落雷したかのように我に返り、朱音と心寧のもとへ駆け出し叫んだ。
「朱音、心寧」
呼びかけても返事はない。
頭から流れる赤い血が道路を濡らしている。
「目を開けろ。おい、何をしているんだ。返事をしてくれ。朱音、心寧。そんなところで寝るんじゃない」
馬鹿な。こんなことってあるかよ。
苦悶の表情をした妻と娘が目に焼きつき離れない。どうしてだ、どうしてこんな。
蓮は涙を流しながら咆哮した。まるで獣のような叫び声で。
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