第1章 傍ら

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第1章 傍ら

 美咲はそわそわしている。  今年もあと数時間で終わる。そんな大切な時間を今は家族と過ごしている。 「美咲。ちょっと手伝ってよ」  母親の道子が台所からリビングで携帯を弄る美咲に声が飛ぶ。 「なに?何を手伝うの?」と携帯をテーブルに置いて美咲は台所へと向かう。 「ちょっと、サツマイモを濾してから、シロップと混ぜて」 「えぇ・・・。チョーめんどくさい」と文句を言いながらも、美咲はこの後の楽しみからか、気分はウキウキしていた。  言われた通りにサツマイモを濾して、シロップと混ぜる。少し味見をすると、我ながら美味いと感心してしまう。その中に水煮の栗を入れて更に混ぜる。  料理上手の父親直伝、我が家の栗きんとんは毎年手作りとなっている。  次に伊達巻に作りに取り掛かる。  海老と白身魚を摺りおろし、砂糖とみりんを混ぜてから卵焼き用のフライパンで焼く。焦がさないように焼くのに手間が掛かるが、これもすんなりと熟した。  焼きあがった卵焼きを少し冷ましてから、すだれで巻いていく。巻きあがったすだれは解かずに、しばらくそのままにしておく。それが倉橋家のやり方だ。  そうこうしているうちに、時間は午後八時を回った。  家族で遅い夕食を食べる。  美咲の家族は五人家族である。両親に妹の美幸、弟の稔。  その妹と弟は昼間から遊びに行って、帰って来るのが遅かったせいで、夕食も遅れた。 「全く!あんた達が遊びに行くから、私が家の手伝いをしなくちゃいけなくなったでしょう」と年末になっても、美咲は妹達に文句を言った。 「そんな事ないよ。ちゃんと、昼間はバイトに行っていたし、その後、友達と遊びに行っているからね」と美幸が文句を返す。 「そこに正論があるとは思えないけど」と美咲が返すと、父親の光彦が「年越し前に喧嘩はやめてくれよ」と苦言を呈した。  五人は出された料理を残らず食べると、しばらくは年末特番の番組を鑑賞しながら時間を過ごした。  午後10時を回った頃、母親の道子は年越しそばを準備して運んできた。これには妹の美幸が手伝っている。 「こりゃ、年初めからダイエットだわ・・・」と美咲が呟くと、弟の稔が「ダイエットしたって、痩せないよ。性格がブスだから」と皮肉る。 「稔!アンタね・・・」と美咲が立ち上がろうとすると、光彦がまた、「年末なんだから・・・」と、また二人を諭した。
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