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「徹平。さっきロッカーに戻って来る時、お前に声を掛けて来たの、お前の彼女か?」
「えっ?いえ、違いますよ・・・」と徹平は試合以外の話題に少し動揺を見せた。
「照れるなよ!可愛い彼女じゃん。彼女の為に、カッコいいとこ見せてやれよ」
「そんな・・・。まだ、そんな関係じゃ・・・」
「なんだよ?付き合って無いのか?なら、この試合ゴールを決めるから、俺と付き合ってくれって言えよ!」
「そんな事、言えないっすよ」
「言えよ、嘘でも。それが後半の活力になるだろ」とブラジルからの留学生で同級生のアイマールが言う。
彼は、日系人の祖父母を持つブラジル人で、日本語も堪能である。普通に日本語を話せるだけあって、日本文化にも馴染みやすいという事で、サッカーと日本文化交流という名目で留学してきた。
「アイマ・・・」
「なら、僕が告白するよ。日本人の彼女が欲しかったから」
「えっ・・・」
一瞬、徹平は絶句してしまった。その瞬間、自分が美咲への思いを確実に思い出した。
美咲を愛している。
「川崎!後半の10分で何か結果が出ないようなら、他の奴と交代させる!わかったな」
突然の監督の声掛けに徹平は現実に引き戻された。
「はい!」と徹平は返す。
徹平はさっきまでの美咲への思いを思い返す。
そう、自分は美咲の事が好きだ。好きなんだ。その思いをまだ、伝えていない。ここで、不甲斐ない自分の姿を見せてしまったら・・・。
「おい!ベンチメンバーからの話だけど、アルゼンチン代表のジュニオールが来ているらしいって」
「!!」
「えっ!マジかよ」
「あぁ、ただ似ているだけなのかもしれないけど、ちょっとスタンドがざわついているぜ」
「見て来ようぜ」
試合に出る選手を残して、数人の部員がロッカールームから出て行った。
『ジュニオールさんが・・・』
徹平はジュニオールが来日している事は聞かされていない。だから、単なる人違いだと思った。思ったが、今、自分の気持ちの中に芽生えた希望は、ジュニオールにあって、あの時の自分を取り戻すためのアドバイスを聞きたかった。
「よし!少し早いがピッチに行くぞ!後半、絶対に巻き返して、この試合勝つぞ!!いいな!!」
「はい!!」
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