38人が本棚に入れています
本棚に追加
だって清凛さんは、
「落ち着いて。慌てないから」
優しい。
「ゆっくり、ボクに気を許してくれればいい」
とても優しい。
あたしが、心の中で何を考えているか、知りもしないで――。
「澪ちゃん?」
あたしの頬を右手の親指でそっと拭った。
「なんで泣いてるの?」
あたしは、なんで泣くのだろう。
「誰を思って泣いてるの?」
清凛さんが意地悪く頬を歪めて聞いた問いに、あたしは顔がくしゃくしゃになるのを感じた。
清凛さんは気づいている。
あたしが見ないふりをしていたことに、きっと気づいている。
あたしはただ、頬を拭う清凛さんの指が、
『これは違う』
と感じているだけ。
最初のコメントを投稿しよう!