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間劇
少女は力の限り走っていた。
先を駆ける数人の大人達から離されまいと、木々の隙間を抜い、擦りきれるように悲鳴を上げる肺を限界まで酷使しながらひたすらに後を追う。
「待ってっ! お願いだからっ、私をっ──」
背後からは人のものではない無数の獣の足音が迫ってくる。その包囲を徐々に狭めていた。
現実に容赦はない。
少女がいかに必死に力を振り絞ろうとも、大の大人に足で敵う訳もなく、一人取り残された先には絶望が口を開けて待っている。
しかし、急げば急ぐ程、慌てれば慌てる程身体は言うことをきいてはくれない。形の悪い足場に体勢を崩し、ついには転倒してしまう。
離れていく背中に手を伸ばし、そして見たのだ。
前方を走る男が一瞬だけ振り返り、口元に歪な笑みを浮かべていたのを──。
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