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午後を告げる鐘の音が石造りの礼拝(れいはい)堂に響き渡り、(わず)かな余韻を残して(かす)かに(ふる)えている。差し込む光は色ガラスを通して朧気(おぼろげ)な色彩を帯び、空気に漂うチリや(ほこり)に反射してキラキラと輝いて舞うのが昔から好きだった。 それはまるで、明るい夜空に星屑(ほしくず)が拡がっているような、とても神秘的で心安らぐ光景なのだ。 もはや立ち上がる気力はなく、混濁(こんだく)する意識が輪郭(りんかく)を失っていく。こんな所で眠りにつけるのならそれも悪くない。 まどろみに揺れる思考の水面(みなも)にそんなことを考えていると、ボソボソと誰かの呟く声が聞こえてきた。 祭壇(さいだん)の陰からひょいと顔を(のぞ)かせてみれば、商人のトマスがひとりで祈りを捧げている。普段は神など(かえり)みないあこぎな仕事をする癖に、(わず)かな寄付でしっかりと恩恵だけは受け取ろうとする辺りは商人らしいといえばらしい。 「神様も七日目には寝てたんだ。邪魔しちゃ悪いよ」 (おとず)れなくソリティアが声を掛ければ一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに事情を察して飽きれ顔を返された。 「なんだソリティア。またサボりか。ユノが探していたぞ」 「知ってる。知らないよあんなの」 神の前で嘘はつけないので素直に悪態をつく。
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