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ソリティアの本職はこの村のシスターである。緑味に透き通る翡翠(ひすい)の瞳と整った顔立ちは、黙って居れば貴族の令嬢もかくやという容姿なのだが、生憎と中身までは持ち合わせていない。 肩に掛かる金髪も整えれば見目麗しく誰もが振り返る繊細なものを、ツンツンと跳ねた毛先は癖毛ではなく寝癖だ。 馬子にも衣装の修道服は至るところに修繕の箇所が見られ、彼女の活動的な性格を(おお)い隠すには(いささ)か限界がきていた。 そんな(おり)にトマスが仕入れに出るという話を聞き、前回はその護衛と引き換えに新しい修道服の為の布地を報酬として頼んだ。 のだが。 いざ街にたどり着くと、金にがめつい商人は布ではなく珍しく市場に出ていた薬油(やくゆ)を仕入れたのだ。 精霊の加護とその成分が凝縮された質の良い薬油は金額もさることながら何よりも物が小さく大量に荷馬車に積める。それだけ負担は小さく、利益は大きくなるということだ。 良薬口に苦しと言うが、噛まされたのは苦虫だ。なんと苦い経験なのだろう。 結局、護衛の報酬は布地ではなく貨幣となり、しかもそれをよりにもよってユノの目の前で支払われた。ソリティアとは真逆にシスターのお手本とも言うべきユノの前で。清貧(せいひん)静粛(せいしゅく)が服を着たようなシスターの前でだ。 本来貰えるべき報酬の袋も大分軽くなってしまったのは言うまでもない。 例えどんなに仲が良くても、こと金が絡んだ商人を信用してはならないとこの時に思いしった。
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