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「だいたいにしてシスターに護衛を頼むってところからそもそもおかしいと私は思うんだ」 祭壇に寄りかかり片肘をつく。格式ばる必要はないが、この場所に立つ以上は教えを説かねばなるまい。文句を言いたいだけでも建前はあった方が良い。 「それをこなせるのもどうかと思うがね。より売れるものを売り、使えるものはたとえ兄弟だろうと使う。商人として何も間違ってはいないだろう。それとも……自信がないのかね?」 トマスが上目遣いに値踏みをするような視線を向けてきた。 「前回はちゃんと護衛したじゃない」 「だからボロが出ない内に身を引こうと」 「ボロが出たから引き受けたんだよ!」 安い挑発だ。 幸いにも、今月の給金と合わせれば運賃を上乗せされても布地は購入できる。無駄に仕事を増やさなくても、トマスが帰ってくるのを大人しく待っていればいいのだ。 商人が売っている喧嘩など、いくらするのか分かったものではないのだから。
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