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ソリティアも別に本気で怒っている訳ではない。もちろん不満がないといえば嘘になるが、トマスのこういった性格は昔からなので正式に契約書を交わさなかった自分にも落ち度はある。
だからこれはあくまで戯れの延長線だ。
彼が本当に困っているのならそこに手を差しのべることに些かの抵抗もないし、あからさまに哀れみを乞う表情からはどことなく余裕が垣間見える。
案の定、トマスは小さな笑みを浮かべてあっさりと引き下がった。
「まあ無理にとは言わないさ。キミに頼まなくても当てならある」
「へえ……どんな?」
「噂をすれば影だ」
そう言うと、先程のように頭を垂れて旅の祈りを再開した。
ソリティアも慌てて祭壇の陰へと身を隠す。
扉の向こうから、コツコツとこちらへ近付く足音が聞こえてきたからだ。
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