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美純が首を傾げる。
「あー? だって、荷物持ってくれたし、部屋の片づけ手伝ってくれたし、お風呂掃除や布団干しまでやってくれたんだよ? すごく優しいと思うけど?」
「それは、お前がいたからで、」
「そんなことはない」
きっぱりと美純は言った。
「帰り道、途中まで一緒だから同じ電車に乗ったんだけど……。2つ席が空いててね。私は座ったけど、あの人、座ろうとしないの。なんでかなあって思ってたら、後ろにお腹の大きい人がいたんだよ。柳ヶ瀬さん、その人が来るのを待ってたみたい。で、傍まで来たら、自分はふいって、ドア近くまで移動してっちゃったの。すごくスマートだった。あれ、いつもやってんだよ」
「……単純に、お前の隣に座りたくなかったんだろ」
むっとしたように、美純が鼻を鳴らした。
「あと、乗換駅で道を聞かれたの。ちょうど自分もそっちにいくからって、そのまま、そのおばあさんと2人で、改札を出て行っちゃったよ。確か、私鉄に乗り換えるって言ってた筈だけど。おかげで、私、さよならのご挨拶もできなかったしぃ」
美純に背を向け、年配の女性と去っていく遼の姿が目に浮かぶ。
女性の方に俯けた顔は、照れくさそうに歪んでいたはずだ。
「あー、それも、うるさいお前を振り切りたいという……」
「すごく優しい人だと思うけど」
豪太を遮り、きっぱりと美純は言った。
「やり方的に、とっても、わかりにくいけどね」
「……」
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