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蒼から聞いた話を、豪太は思い出した。
無茶な納期を設定されて困っている人がいると、すぐに手伝いに行ってしまうという。
蒼は、それを、優しさからだと言っていた。
でも豪太は、蒼のひいき目だと思った。
幸崎も、同じようなことを言っていた。
その時は、ワーカホリックだとしか考えられなかったし。
「いいんじゃない?」
簡易テーブルを布巾で拭きながら、美純が言った。
「人間として、だけど。でもそれって、一番大切なことだと思う」
うつむいたまま、さらに、ひとり言のようにつぶやく。
「お父さんとお母さんの孫なら、私がたくさん作ってあげるから」
「美純、お前、何言ってんだ?」
美純はまっすぐ、豪太の顔を見た。
「だって、好きな人って、そういうことでしょ?」
「いや……」
「違うんだ。遊び?」
「そんなことない!」
慌てて豪太は遮った。
「遊びだなんて、そんな。真剣につきあいたいと思ってる。でも……、俺はどうも、あの人から相手にされてない……みたいな……?」
「ああ、そう。身代わりに、そんな怪我までしてあげたのに? 私にお粥まで作らせて? こんなに一生懸命なのにね、お兄ちゃん。気の毒に」
からかうような口調だった。
「ま、でも、お兄ちゃんが一生懸命になるのも、わかる気がする。今まで家に連れてきたカノジョ達なんか、足元にも及ばないって感じ? お兄ちゃん、女子の趣味はサイテーだったもんね。人はやっぱり、中身で選らばなくちゃ。お化粧のノリや、胸のサイズじゃなく。それがやっと、わかったんだね」
「……」
豪太が言葉に詰まっていると、そっと付け加えた。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん」
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