優しい人?

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 それ以上我慢することは、到底、できなかった。  豪太は跳ね起き、飛びかかった。  驚く遼を、ベッドに押し倒した。 「ば、ばか、なにするんだ!」 「ごめん、柳ヶ瀬さん、ごめん」 「ばか、なぜここで、お前が謝る!」 「なぜかな。わかんない」 「いいから離れろ。傷が開くだろ!」 「いやだ」  そう言って、ぎゅうぎゅう抱きしめる。  下の男が、むせ返った。 「くるしい……」 「あ、ごめ……」 力を緩めたところを、思い切り、押し返された。 「こんなところでサカってるんじゃねえ、この馬鹿が!」 「うん」 「わかったら、とっとと……」 「あのね、柳ヶ瀬さん。僕がなぜ、差額料金を払ってまで、個室にしたかわかる?」 「知るかよ」 「いつだって、機会あらばと付け狙ってるのが、男ってもんだよ」 「俺も男だ。だけど俺は、そんなことはしない」 「それはね。僕の愛の方が大きいから!」 再び飛びかかろうとしたら、躱されて、頭をぽかりと叩かれた。 「お前ね、こっぱずかしいこと、言ってんじゃねえよ。トリハダが立ってきた」  腕をめくって見せる。  白いなめらかな皮膚を台無しにして、確かに無数のぼつぼつが浮かび上がっていた。  じーじーと、掠れた音が入った。  面会時間終了のアナウンスが流れる。  「なあ、柳ヶ瀬さん。泊まってけよ」 「ばか。病院だぞ、ここ」 「なら、退院したらいいんだね!」  すかさず言質を取ろうとする。  遼は、床に置いてあったカバンを取り上げた。  しっかりと豪太の目を見据えた。 「お前とはやらない」 「前にやった」 「あれは、事故だ」 「事故……」  あんまりだと思った。  そんな言葉で片付けて欲しくなかった。  ふっと、遼の目の光がぼやけた。 「もし、同じことを繰り返したら……俺は、お前のそばからいなくなる。今度こそ、永遠に」 そう宣告し、彼は病室から出て行った。
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