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「ちょいとあんた。ハヤマに何を言っても無駄なんだからね!ハヤマはここいらでは自由に飛んでゆく蝶のような存在なんだから、医者としての残忍性を持ってして翅をもがないでちょうだい」 酒場の女性が医者へと訴える。 「だよなぁ……アンナ助かった。とりあえず酒をくれ」 「ほら、今日はアンタのパトロンはまだ来ていないのね」 アンナと呼ばれる酒場の女性は、ハヤマへ酒瓶を一本渡す。 「アンナが居てくれりゃ、うまい酒が飲める」 「アタシがアンタのパトロンになれるのかしら?」 「生きていてくれるんなら大丈夫じゃない?起きれなくなったら最期、三日後にはおさらばの世界だからなぁ」 「ああーもう、アタシは閉鎖前に街を出て行くんだったよ本当」 「やり残していることがあるなら、そうすべきだったさ」 「ただ、この店にも愛着っていうのがあってねぇ……もちろん街にもあるし、死んでいった仲間たちにだっていろいろ想いっていうのがあるのよ」 「想いなんて持たないほうが無難さ。ただ重くなるだけだ。自分が生きていくだけで精一杯のはずなのに、なんだって、こんな無駄なものばかり背負うんだか」 「それはアンタでしょう。アンタは過去ばかり背負って、ここから出て行かなかった」 「あ?おれはもうアルコールに浸り過ぎて、まともに真っ直ぐ歩けないんでね……」 ハヤマは罰が悪そうに受け取った酒瓶を持って、奥の部屋へと引っ込んだ。 後を追うようにアンナがついていく。 医者は追いかけることをせず、黙ってその場を後にした。 おそらく、ハヤマは手伝いに来る。その確信があった。 ハヤマは別の派遣の権力ある医者には、食い下がってでも自分に治療の手伝いをさせてくれと懇願しているのを、たまたま見ていたのである。 ハヤマは医療行為をしたくても出来ない状況にあった。
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