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気付けば、街は閉鎖されていた。
どこにも逃げることができない状況になっていた。
逃げたところで助かる保障もない。
そりゃあ、そうだ。
道には平然と死体が転がっている。
死体は見るからに腐っていたり、はたまたひょっとしたらこれは死んでいるのではなくて、ただ深い眠りについて眠っているだけなんじゃないかと思われるものもある。
寝ているのか死んでいるかの見た目の違いなんて、呼吸の有無だけだ。
口もとや胸部を黙って数秒、眺めてみる。
見て分からなければ、生きていないものとして期待値最小限で接する。
接するというよりは放置だ。
救助は気が向いたときで、どうせ死んでしまうのだから、何をしたって仕方がないのだ。
どちらにせよ、動かないヒト型の物体が道に転がっているのは異常だ、と正常だったころの頭は答えを指し示す。
何が正しくて、何が違うのかなんていうのはもうわからなくなっていた。
ただ、目の前では生きていたヒトが、無情にも死んでゆくということだけだった。
ヒトは二足で立って、元気に活動しているのが常だったのに、ある日突如として吐き気を催して、起きていられなくなり、病に伏すと、二、三日もしない間に息を引き取る。
呆気ないものだ。
もしかしたら時代が変わったのかもしれない。
人類が自然に淘汰される時代になったのかもしれない。
死体を見ることに慣れてしまった自分は、そんなことを思うようになった。
寝転がっているヒトを看病して、その後、遠からず死んで動かなくなるのを、もう幾度とも数え切れないほど見てきた。
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