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「ハヤマ」
医者が呼びかけると、アルコールに酔い浸った濁った目をしている男が気怠げに反応を示した。
「あいあい、なんだい、呼んだかい旦那。わざわざ会いに来て酒でも驕ってくれるっていうわけ?それとも朝から説教か?旦那はいつだって説教ばっかりだもんなぁ……勘弁してもらいたいね。いやになるね、ケッペキショウの人間はここではやっていけねーよ」
ハヤマはアルコール中毒者特有の上機嫌な舌足らずで一方的に捲し立てた。
「手伝え」
医者は会話をしようとは思わず、言葉少なに要望だけを伝えた。
ここでの時間は一刻を争う。
しかし、時間とは不思議なもので、進んでいるかと思えば止まっていたりする。
ふと目を向けた酔いつぶれた客の寝姿を見れば、まるで時間は止まっているかのように思えるのだった。
こいつは生きているのか死んでいるのか、それすらわからない。
生きている人間と死んでいる人間の区別が近ごろでは難しく感じられる。
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