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まるで霧が晴れない時のようにスッキリとしない。蟠りを抱えながらしばしとぼとぼと歩く。当てもなく歩いていると目の前に本屋が見えた。
まだ三時も回っていない。家に帰ってもする事ないし、という軽い気持ちで本屋に入った。
すると。
「「あ」」
店内に入ろうとした瞬間、扉をくぐる所で奈緒とバッタリ出くわした。
お互いに顔を見合わせると驚きの声を上げながらしばし立ち竦んでしまう。
「な、何で奈緒がこんなとこにいんだよ!」
「それはこっちのセリフよっ。て、てゆうか何普通に声かけてんの! 話しかけないで、てか私の視界に映らないでくれるっ?」
「なんつー横暴な。分かったよ、消えます消えます。じゃあね」
敵対心をむき出しにする奈緒の無下な態度に僕はすっかりさっきまでの落ち着きを失って半ば意固地になりながらつっけんどんな態度を取ってしまう。
「べーっ、だ!」
去り際に奈緒は舌をちろっと出してあかんべをした。仲直りをする気が一切ないのだと知れて余計に腹立たしく自然と歩き方が荒々しくなるのが分かった。
本屋を離れ、どこへ行こうかと考えながら歩いていると「そういえば」と思い出す。
観たい映画があったのだ。
向かう先はレンタルビデオ屋となった。
「そうそう。去年、予定が合わなくて観れなかったんだよな」
恋愛モノの映画で、僕は普段アニメかアクション映画くらいしか観ないのだがその時は奈緒に誘われて、
「うぅ」
そうだった。
不意に奈緒との思い出を振り返ってしまった事にしまった、と思ってしまう。
こんな時に限って、という感じである。
「出よう」
一気に気持ちが白けて僕は店を出る事にした。
だがここでも何の因果か、彼女と出くわした。
「あ、あんたねぇ。まさか私を尾行してるんじゃないわよね?」
店を出てすぐ、扉の前で奈緒と鉢合わせ。顔を合わせてすぐ、奈緒は不信感剥き出しでそう言い放つのだった。
「いやいやいや、それはそっちでしょ。何だよ、さっきは視界に映らないでとか言ったくせに僕の前に現れてさっ」
「私があんたを尾けてたって言いたいわけっ? 冗談じゃない! もう本当に今度こそ私の前に現れないでよね!」
言って奈緒は踵を返して早足で去っていく。
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